MLBポスティングシステムは、日本のプロ野球からメジャーリーガーへと移籍する際の重要な手続きです。選手が希望するMLB球団と交渉するために利用されるこのシステムには、特定のルールが存在します。この記事では、ポスティングシステムの詳細な解説とともに、過去の問題点や譲渡金の計算方法について触れ、これらのルールが選手や球団にどのように影響してきたかを考察します。
MLBポスティングシステムのルールを解説
日本のプロ野球(NPB)からMLBへ移籍する際、ポスティングシステムを通じて行われる手続きには、特定のルールがあります。このシステムのポイントを簡単に説明します。
ポスティングの対象
- NPBの選手が国際フリーエージェントになるためには、9年のプロ経験が必要です。
- 9年未満の選手がMLB移籍を希望する場合、「ポスティング」を申請することでMLB球団と交渉が可能になります。
ポスティング期間と交渉
- 選手がポスティングされると、MLBの全30球団が45日間、その選手と交渉できます。
- 期間内に契約が成立しない場合、選手はNPB球団に戻り、次のオフシーズンまでポスティング申請ができません。
譲渡金(リリースフィー)の計算方法
ポスティングシステムの改定(2018-19年オフシーズン)以降、譲渡金は選手の契約額に基づいて以下のように計算されます:
- 契約総額が2,500万ドル以下の場合
総額の20%がNPB球団に支払われます。 - 契約総額が2,500万ドル~5,000万ドルの場合
最初の2,500万ドルの20%に加え、2,500万ドルを超える部分の17.5%が譲渡金となります。 - 契約総額が5,000万ドル以上の場合
最初の2,500万ドルの20%、次の2,500万ドルの17.5%、5,000万ドルを超える部分の15%が譲渡金になります。
例えば、契約総額が1億ドルの選手の場合:
- 最初の2,500万ドル → 500万ドル(20%)
- 次の2,500万ドル → 437.5万ドル(17.5%)
- 残り5,000万ドル → 750万ドル(15%) 合計:1,687.5万ドル
その他のルール
- マイナー契約の場合:契約金の25%が譲渡金。
- MLB契約にボーナスやオプションが含まれる場合:ボーナスやオプション金額の15%が追加譲渡金として支払われます。
ボーナスプール制限
25歳未満かつ6年以上の外国リーグ経験がない選手は、MLBの国際ボーナスプール制限が適用されます。この制限により、契約可能な金額がMLB球団ごとに設定されています。
過去のポスティングルール
2012年までの制度
- 制度概要: 選手がポスティング申請を行い、MLB球団は最高入札額を提示。NPB球団はその金額を承認または拒否でき、契約交渉が成立すれば、MLB球団が入札金額をNPB球団に支払う。
- 問題点:
- 選手に球団選択の自由がない。
- 高額入札後に契約が成立しなければ、MLB球団に金銭的損失が発生しない。
- 松坂大輔の事例では、入札がライバル球団の妨害目的であった可能性も。
- 高額入札がスモールマーケット球団にとって不利。
2014年から2017年までの制度
- 制度概要: NPB球団が譲渡金(上限2,000万ドル)を設定し、MLB球団はその金額で契約交渉ができる。契約が成立すれば、譲渡金はMLB球団からNPB球団に一括または分割で支払われる。
- 問題点:
- 譲渡金に上限が設定されたことで、NPB球団が大きな見返りを得られなくなった。
- 譲渡金額の設定ミスが全く入札されないリスクを生む。
これらの問題点が選手と球団双方に影響を与え、制度の見直しが求められる要因となりました。
日本人選手のポスティング譲渡金一覧
年度 | 選手名 | 日本での所属球団 | 契約球団 | 譲渡金額 (ドル) | 譲渡金額(円) ※参照 |
---|---|---|---|---|---|
1998年 | アレファンドロ・ケサダ | 広島東洋カープ | シンシナティ・レッズ | 40万1ドル | 約5,213,000円 |
2000年 | イチロー | オリックス・ブルーウェーブ | シアトル・マリナーズ | 1312万5000ドル | 約141,750,000円 |
2001年 | 石井一久 | ヤクルトスワローズ | ロサンゼルス・ドジャース | 1126万4055ドル | 約138,762,000円 |
2002年 | ラモン・ラミーレス | 広島東洋カープ | ニューヨーク・ヤンキース | 30万50ドル | 約3,756,000円 |
2003年 | 大塚晶文 | 中日ドラゴンズ | サンディエゴ・パドレス | 30万ドル | 約3,450,000円 |
2004年 | 中村紀洋 | 大阪近鉄バファローズ | ロサンゼルス・ドジャース | 非公表 | – |
2005年 | 森慎二 | 西武ライオンズ | タンパベイ・デビルレイズ | 75万ドル | 約7,800,000円 |
2006年 | 松坂大輔 | 西武ライオンズ | ボストン・レッドソックス | 5111万1111ドル11セント | 約592,292,000円 |
2006年 | 岩村明憲 | 東京ヤクルトスワローズ | タンパベイ・デビルレイズ | 450万ドル | 約46,350,000円 |
2006年 | 井川慶 | 阪神タイガース | ニューヨーク・ヤンキース | 2600万194ドル | 約302,825,000円 |
2010年 | 西岡剛 | 千葉ロッテマリーンズ | ミネソタ・ツインズ | 532万9000ドル | 約49,553,000円 |
2011年 | 青木宣親 | 東京ヤクルトスワローズ | ミルウォーキー・ブルワーズ | 250万ドル | 約20,000,000円 |
2011年 | ダルビッシュ有 | 北海道日本ハムファイターズ | テキサス・レンジャーズ | 5170万3411ドル | 約413,627,000円 |
2013年 | 田中将大 | 東北楽天ゴールデンイーグルス | ニューヨーク・ヤンキース | 2000万ドル | 約174,000,000円 |
2015年 | 前田健太 | 広島東洋カープ | ロサンゼルス・ドジャース | 2000万ドル | 約242,000,000円 |
2017年 | 大谷翔平 | 北海道日本ハムファイターズ | ロサンゼルス・エンゼルス | 2000万ドル | 約224,000,000円 |
2017年 | 牧田和久 | 埼玉西武ライオンズ | サンディエゴ・パドレス | 50万ドル | 約5,600,000円 |
2018年 | 菊池雄星 | 埼玉西武ライオンズ | シアトル・マリナーズ | 1027万5000ドル | 約113,025,000円 |
2019年 | 筒香嘉智 | 横浜DeNAベイスターズ | タンパベイ・レイズ | 240万ドル | 約25,920,000円 |
2019年 | 山口俊 | 読売ジャイアンツ | トロント・ブルージェイズ | 127万ドル | 約13,716,000円 |
2020年 | 有原航平 | 北海道日本ハムファイターズ | テキサス・レンジャーズ | 124万ドル | 約13,392,000円 |
2021年 | 鈴木誠也 | 広島東洋カープ | シカゴ・カブス | 1462万5000ドル | 約150,757,500円 |
2022年 | 吉田正尚 | オリックス・バファローズ | ボストン・レッドソックス | 1537万5000ドル | 約176,800,000円 |
2022年 | 藤浪晋太郎 | 阪神タイガース | オークランド・アスレチックス | 65万ドル | 約7,450,000円 |
2023年 | 山本由伸 | オリックス・バファローズ | ロサンゼルス・ドジャース | 5062万5000ドル | 約657,125,000円 |
2023年 | 今永昇太 | 横浜DeNAベイスターズ | シカゴ・カブス | 982万5000ドル | 約127,925,000円 |
2023年 | 上沢直之 | 北海道日本ハムファイターズ | タンパベイ・レイズ | 6250ドル | 約812,500円 |
2024年 | 佐々木朗希 | 千葉ロッテマリーンズ | ロサンゼルス・ドジャース | 162万5000ドル | 約21,387,500円 |
2024年 | 青柳晃洋 | 阪神タイガース | フィラデルフィア・フィリーズ | 非公表 | – |
2024年 | 小笠原慎之介 | 中日ドラゴンズ | ワシントン・ナショナルズ | 70万ドル | 約9,310,000円 |
まとめ
MLBポスティングシステムは、日本のプロ野球(NPB)選手がMLB移籍を希望する際に利用される制度です。このシステムでは、選手がポスティング申請をし、MLB球団が交渉権を得るための譲渡金(リリースフィー)を支払います。近年、譲渡金の計算方法が変更され、契約額に基づいて段階的に金額が決定されるようになりました。過去には入札金額の上限や交渉の自由度が問題視されましたが、システムは選手と球団双方に影響を与えるため、引き続き改善の余地があります。さらに、日本人選手のポスティング譲渡金一覧も紹介され、移籍時の金額動向が確認できます。
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